「年金は得だ」は本当か?
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- 先日テレビを見ていたら、大臣が、「年金は85歳まで生きれば支払った総額の1.7倍もらえるんです。だから(制度さえきちんと整備されれば)加入したほうが得なんです。この差額は税金でまかなわれているんです(税金投入比が最大1/2に引き上げられたことを指していると思われる)。」といっていた。
- なるほど、加入していてもいなくても税金は払うものなのだから、それなら加入したほうが得だというのはそのとおりに思えた。
- しかし大臣がこの発言をしたのは「将来もらえるかどうか分からない年金よりも貯金したほうがいい」という市民の声に反論したときだったので、僕は「うーん、1.7倍になるからといって得だとは言い切れないような・・・」と思った。なんといっても貯金には金利がある。毎年積み立てられつつも金利が複利でつくのだ。しかも低金利だといっても、長期の定期預金なら、金利はそこまで悪くはない。
- ということで、少し計算してみようと思う。
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- 貯金とほぼ同じくらい確実で、金利がそこそこいいものとして、国債があると思う。だから普通の預金や定期預金ではなくこれで考えてみたい。
- もちろん国債には不払いのリスクはある。しかし国債の支払いが滞るようなことがあった場合、おそらく日本円の価値そのものもそうとう危うい気がする(=急激なインフレになる)し、国債が払えないような状況なら年金どころじゃないだろう、という仮定がある。年金はいろいろと難癖をつけて、たとえば給付開始年齢を引き上げるとかで実質的な値下げがありうるかもしれないが、国債にはそういうことはまずないだろうから、やはり国債のほうが安心度は高そうだ。
- また銀行も国債は大量に持っているので、国債が償還されなくなると大半の銀行もつぶれるだろう。そして預金者保護があるといっても、その保護する立場の政府にお金が無い(国債すら返せないほどお金が無い)のなら、保護もされないだろう。だから、国債の安心度と定期預金の安心度はほぼ同じだろう。
- 20歳から25歳まで働いて貯金を作ったとする。これで最近出てきた40年国債を買ってみよう。これは65歳のときに償還されるわけだ。先日の40年国債は金利が年率2.4350%だったそうなので、40年後には2.6倍になってもどってくることになる。たったの1.7倍なんかではない。・・・そして70歳になると、25-30歳のときの貯金で作った年金が償還される。こうして絶え間なく2.6倍になった年金を受け取ることができる。
- ただしこの方法の場合、55歳から60歳までに稼いだお金を受け取るには、100歳まで生きなければいけない。85歳までしか生きられないと仮定すると、受け取れる額は減ってしまう。どのくらい減るだろう。仮に5年ごとに100万円を40年国債に変えた場合、20-60までの40年間で800万円ためたことになるが、65-85までに帰ってくるのは、5x100x2.6=1,300万円でしかない(85歳になって40-45の分も受け取ってから死ぬと仮定した場合)。これは800x2.6=2,080万円よりは少ない。それでも、1300/800=1.625だから、1.7倍ほどではないにしても、結構近い金額を受け取ってはいるのである。
- しかもこれは年金とは違って、死後も遺族がお金を満額で受け取れる。まあ年金にも遺族年金というのがあるけど、あれは満額じゃなくて75%だ。だからむしろ国債方式のほうがいいかもしれない。
- 国債方式の場合だとこんなこともできる。たとえば75歳で非常に重い病気になって、もう80歳以降の年金が不必要になったとする。そんなときは、100歳や95歳の分の国債を市場で売却することもできる。その場合、満額の2.6倍にはならないだろうし、少々買い叩かれるけど、でもとにかく現金にはできる。そのお金で難しい手術をして、病気を治せるかもしれない。そうすれば、94歳までは年金をもらいつつ生きていける。・・・普通の年金は、たぶんこんなことはできない。年金を担保にしてお金を借りることならできるかもしれないけど、借金利率は2.4350%よりも高いだろうから、結局は損だ。
- 満額前に売り払えるということも考えれば、85歳までに受け取れる額が1.625倍しかないとしても、それは全然悪くない気がする。なんなら85歳になったときに100歳受け取り分を売ってしまってもいいだろう。これで1.7倍は超えると思う。だから年金とくらべて損だとはいえないと思う。
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- 国債方式はほかにもいいことがある。何がいいって、社会保険庁なんかいらない。大量に公務員をカットできる。建物も土地もいらない。そのぶんの費用もいらない(=税金が下がる)。また子供や孫の世代が年金を払わなくても、仕組みが崩壊するということはない。
- 僕たち国民が年金制度を守るために頭を悩ませる必要もない。今まで国会がどれほど年金のことで時間を使ってきただろう。その時間で他のことが議論できたら、どれだけ世の中は良くなっただろう。
- もちろん、国債の償還時に2.6倍になるということは、増えた1.6倍分を誰かが負担していることになる。それは誰かというと、結局は税金である。そういう意味で、やはり子供や孫の負担にはなっている。でも、それなら政府は借金をしなければいいのだ。もしやむなく借金をするのなら、というか税率を上げるよりも今は総合的に考えて借金をするほうが政府、国民にとってプラスだと考えているのだろう、そうであるならば、「国債を買ってお金を政府に貸してやる」のは、賞賛されることはあっても、非難されることではないはずだ。
- 税金の問題はある。今は年金の支払い分は控除されるので、つまり課税されていない。また厚生年金なら半分は自分の給料から引かれるけど、半分は会社が負担してくれる。でもこれは帳簿の問題というか、瑣末な問題だ。たとえば国債購入費用には課税しない(その代わり償還金は全額を課税対象とする)とすればいいだけだ。厚生年金だって、会社は厚生年金に払っているのと同額を給料に加算すればいい。・・・だからこんなのは取るに足らない。少なくとも、今の年金制度の複雑さ、煩雑さに比べれば、こんなのは簡単な法改正だけで解決できる。
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- 金利の問題もある。今は金利が0.50%だから、40年国債が年率2.4350%なんじゃないか。もっと低金利になったらどうするのか。・・・うーん、どうしようか。まあでも基本的に40年国債はそのときの金利にあまり影響されない。というか、普通国債金利はそのときの公定歩合に+1%した値になっている(らしい)。この計算式で行けば1.50%になるはずなのだ。それなのに2.4350%という高金利になったのは、この先40年を平均すればこれくらいの金利になるだろう、と市場が予想したからである。だから仮に公定歩合がまたゼロに戻ったとしても、40年国債は2.2%とかそれくらいは維持するんじゃないかと思う。
- 年金は物価スライドでそのときの物価に合わせて払ってくれるからいい、という考えもあるだろう。確かにそれはそうだ。もしそんなに物価の変動が怖ければ、40年国債はやめて、10年国債を満期になるたびに買い付けるほうがいいかもしれない。こうすれば10年ごとに物価変動を反映した利率になるので、物価変動リスクは下がる。・・・このページで40年国債を例にしたのは、単に計算がやりやすかったからであるので(将来の金利とかインフレ率を想定しなくていい)、10年国債で年金代用をやっても結論に差はでないと思われる。
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- ということで、僕としては先の大臣の発言には賛成できない。1.7倍程度で「得だ」なんていうのは国民をだましているような気がする(おそらく悪気はないんだろうけど)。もしメリットを主張するなら、40年国債を少し超える利率で、しかも100歳以降でももらえるんですよ!とかにしてほしい。・・・っていうか、平均寿命くらいの人にとっては、いやさらに10歳長く生きたとしても、あまり魅力がない。さんざん人と時間を税金を使っておいて、その結果が国債利回り程度だったなんて、社会保険庁は恥ずかしくないのかな。仮に不祥事がなくたって、結局あってもなくても同じじゃないか。この程度の年金制度を必死に守る必要があるのかどうか、僕には分からない・・・。
- いっそのこと今貯めこんでいる全部の年金をいっせいに返却して、「各自そのお金で国債を買って年金代わりにしてください」って言うほうがずっといい気がする・・・。まあいろいろバカな投資をしたり、社会保険庁の経費として使い込んでしまった分があるらしいから、支払った額の8割しか戻ってこないかもしれないけど、たとえそうだとしても、こんな役に立たないところに預けておくよりはずっと安心できる気がする(国債を十分に上回る運用率が出せるなら役に立たないなんていわないけど)。
こめんと欄