なぜ人を殺してはいけないの?
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- 僕が高校生のとき、友人はこんな趣旨のことをいっていた(単純に軍縮を是とする考え方に一石を投じようとして)。軍拡も軍縮も結局の目的はたぶん同じだ。自分は殺されたくない。・・・自分が殺されたくはないから、相手に攻められないように自分を守るための武器を集める。もしくは、自分が殺されたくはないから、自分が武器を減らすのと引き換えに相手にも減らしてもらう。
(1)
- 人はなぜ取引をするのだろう。取引というのはつまりお金で自分の持っているもの(生産したもの)を売り、自分のほしいものをそのお金で買うことだ。・・・もしお金が発明される前であれば、物々交換が取引だったと思う。もちろん取引は物だけはなく労働や権利(特許権とか)だったりもする。
- たとえばお店に行ってほしいお菓子が目の前にあれば、それを取引するのはなぜだろう。万引きすればいいじゃないか。実に手っ取り早い。・・・しかし万引きすれば警察に捕まってしまう。なぜだろう。
- 悪いことだから警察が捕まえるという。果たしてそうなのか。・・・むしろこの説明では警察が捕まえるから悪いことだと定義されているのではないか?つまり、いいとか悪いとかって警察に捕まるかどうかじゃないのか?つかまらなきゃやってもいいんでしょ?・・・じゃあなんで警察は万引きを捕まえるの?法律に書いてあるから。
- 法律は何のためにあるの?法律作った人が勝手に書いただけ?書いた人の都合?
- もちろんそうじゃない。むしろ逆だ。いい事と悪い事は、警察なんか持ち出さなくてももちろん定義できる。法律はその「いい事」を推進させるために後から用意したものであって、警察はその法律に従って運用されている組織に過ぎない。法律はまだ開発中だから、まだ書かれていないことがある。でも書いてないからといって「悪い事」をしていいわけじゃない。いや、厳密に言うとしてもいいんだけど、それは結局は自滅を招く。だから遠回りな自殺をしたいのであれば、(法律に書いてあってもなくても)好きなだけ悪い事をしたらいいだろう。
(2)
- 万引きの話に戻ろう。もし万引きしても警察に捕まらないとすると、万引きしたほうが得に思えるのではないだろうか。そう思うのなら、あなたはまだ進化の度合いが低い。
- 万引きを得だと思う社会がここにあったとする。つまり泥棒OK、とられるやつが悪い、ってことだ。こういうルールでももちろん社会は成り立つ。というか動物の世界はまさにこんな感じだ。・・・そうすると、まず各自は自分の財産が取られないように常に見張っていたり隠したりしておかなければいけない。移動の際には身につけておかなければ安心できないかもしれない。ゆっくり熟睡するのも危険だ。・・・こうして各自の能力のうちのかなりの割合が財産を守ることに消費される。したがって生産力は格段に落ちる。
- で、万引きを是とする集落は、万引きを否とする集落との競争にあっさりと敗れた。戦争になれば一発で負けただろうし(技術力の差はすぐにつきそうだ)、戦争しないまでも農業生産とかで差が出て人口の増え方も違っただろう。
- つまりはそれだけのことなのだ。万引きがいけないのではなく、万引きしていた人たちは絶滅しただけなのだ。そして僕たちが万引きをしない性格なのは、万引きをしないほうの子孫だからなのだ。・・・こうやって先祖が命をかけて獲得した能力なのに、それが良く分かってないなんて、先祖も浮かばれないよなあ。
(3)
- なぜ人を殺してはいけないのか?も結局は同じことだ。人を殺してもかまわない社会であれば(北斗の拳みたいな社会?)、みんな毎日トレーニングをするだろう。武器も作ったり買ったりするだろう。だってそうしなければ殺される。殺されればそういう人はいなくなるから、やっぱりこの社会ではトレーニングして武器を持つ人ばかりだろう。
- そうなれば、やっぱり集落としての生産力が落ちる。ほーら、不利になった。だから殺しちゃいけないのだ。それだけのことだ。殺し合いで優劣を決める競争社会も競争の方法としては一理あるけど(そうすれば強い人が生き残るので強い集団になる)、それよりも生産力競争をしたほうが全体としては優秀だったんだろう。
- しかし集落から武器や戦える人を完全になくしてしまうと、人殺しを是としている集落の人が攻めてきた時に困るかもしれない。だからそういう人もいくらかは残しておく。これが軍隊だろう。周辺の国も「進化」して、攻めて来る心配がなくなれば、軍隊も減らせばいい。
- この流れで行けば、いずれ戦争もなくなるはずだ。戦争して勝てばたくさんの利益が得られると思っているのかもしれないが、そうやってドンパチやっていても、地球の裏側で戦争しないで生産力競争していた国の実力には到底かなわない。・・・かどうか保障はできないけど、きっとそうだろうと僕は思っている。この予想が正しければ、「戦争がなくなることは進化」といえるだろう。
(4)
- 法律や警察が必要なのは、この進化の果実を失わないためだ。せっかく進化したのに、まだ進化して間もないせいで安定していないのか、たまに万引きしたり人殺ししようとする人がいる。こういう人は社会から排除しないと社会が自滅してしまう。だから刑罰を予告してそういうことを抑止したり、それでもやった人にはペナルティを与えて社会の中での生き残りを不利にしたり(有利にして似たような人が増えたら社会としては困る)、矯正の余地がないと判断した場合は処刑する。
- 余談だけど、社会から排除すればいいんだから、死刑の代わりに終身刑でも島流しでも同じだろうとは思う(脱獄がないとして)。まあ、生かすためには衣食住がいるわけだし、それは無罪の人の負担になるから、死刑もやむをえない気もするけど。死刑という刑罰は抑止の面からも役立っているのかもしれない。
(5)
- 僕はいい事はすべてこの手法で説明できると思っている。もし説明できないことであれば、それは「いい事」だと妄信されていただけであって、本当は「いい事」ではない。
- なぜ万引きはいけないのか、なぜ人を殺してはいけないのか、そんなことを聞かれてもあいまいな答えしか出せない人は多い。かわいそうだからと同情に訴える説明方法、不幸だの幸福だのを持ち出す説明方法、神様をもちだす方法、そんなのもあるかもしれない。でも、同情するかや不幸かどうかなんて価値観の問題だし、神様の存在を仮定しなければ説明できないような、そんなにあやういものなのか、この問題は。
- そして人々は説明できないのに、その仕組みを利用している。これはまさにテレビの仕組みが分からなくてもテレビが使える、OSの仕組みが分からなくてもOSが使えるというのと同じだ。すべての人が知らなければいけないということはないと思う、でももうちょっと多くの人が知ってもいいのではないかとも思う。
- まあかく言う僕も自分ですべてを悟ったわけじゃなくて、アイザックアシモフ氏のエッセイを読んで自分なりにいろいろ考えてやっと分かったんだけど。
- でここまで分かると、(0)の友人の言はまた違って見える。目的は同じかもしれないけど、軍縮を選ぶ人のほうが進化しているのだ。
- 偉そうに書いてみたけど、僕のこの説明だって本当かどうかは分からない。思い付きをまとめただけだから。
こめんと欄