先物取引の本来の使い方
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- 先物取引というと、なにやら「危ない投資」とイコールだと思っている人が多いらしいけど、それはとんでもない誤解だと思う。無論そういう危ない投資も出来ちゃうけど、それは包丁で人殺しもできるというだけの話でしかない。
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- 世間では今、ガソリンの値段が高くなって嘆いているらしい。ニュースなどで市民のぼやきを聞くと「高くなってやっていけない、どうにかしてほしい」とかいう何の足しにもならない意見ばかりだ。どうにかって、どうしろっていうんだよ。これじゃあ子供が、ママあれ買ってよと泣き喚くのと大差ない。一人くらい「ああこんなことなら安いときに買いだめしておけばよかった」とかいう人はいないのだろうか。こういうぼやきならまだ建設的だ。
- そうとも、政府は別にガソリンの買いだめを法律で禁止しているわけじゃない。だから市民はガソリンの値上がりに対して一生分の在庫を買い占めておくことで十分に自衛できるのだ。でも適当な容器に入れておくと危ないとかいう話は、暫定税率が戻る直前に聞いた。それに、買いだめするには元手が必要だ。買ったら買ったで、保管する場所だって必要だ。いい加減に保存していたら、酸化して燃焼率が落ちるのかもしれない。
- そこで先物取引なのだ。先物取引はすごい。前もって1年後に○○リットルを○○円で買います、と約束するだけなのだ。倉庫は要らない。タンクも要らない。しかも受け渡し日(1年後)まで代金すら要らない。1年後に受け取る原油は、酸化して質の下がったガソリンではなく、先月掘ってつい最近精製したばかりの全くの新品だ。そのガソリンが、1年後に今の値段で買えるのだ(先物の値段はたいてい今の値段とほとんど同じ値段になっている、詳細は後述)。なおここではガソリンの1年先の取引を例に出したが、実際は東京市場では半年先までしか上場されてない。もっと先まであればいいのにと思う。そうでないと一生分の買占めはできない。
- 先物取引は何も我々買い手にとって便利なだけじゃない。たとえば原油を掘る人たちの身になってみよう。今は原油が高いけど、来年は安くなってしまうかもしれない。こんな不安定じゃ従業員を満足に雇えない。だから自分の満足いく値段になったら、先物市場で半年後に○○リットルを○○円で売る約束をしてしまう。これでもしさらに値上がりしたら「あーあ」と後悔することにはなるが、しかし値下がりしても会社の経営が苦しくなることはない。
- 値動きによっては損をすることがあるのは、買い手も同じだ。100リットル17,000円で半年後に買い取る約束をしていたとしよう。そして今、これは実にいい予約したなあとニヤついていたとしよう。しかしガソリンが予想に反して値下がりして半年後に1リットル150円になるかもしれない。もしそうなったらこれは泣ける。ガソリンスタンドへ行けば150円で買えるのにそれでも170円相当で100リットルを買わなければいけないのだ。だからリスクはおあいこである。
- もし値下がりしたら損をする、つまり先物取引はやっぱり怖い、と思うかもしれない。でも僕はこの件に関してはそうは思わない。これはある種の保障なのだ。健康保険みたいなものなのだ。保険だって、病気や怪我をしなければ、掛け金は(掛け捨て部分に関しては)丸損である。でももし病気や怪我をしたらどうする?それでお金がなくて病院にいけなかったり十分な治療が受けられなかったら大変じゃないか。だから(特に貯金が少ない場合などは)保険が必要なんだ。・・・ガソリンの先物だって同じじゃないか。値下がりするかもしれない。値下がりしたら確かに損だ。でも先物予約しないまま値上がりして1リットルが300円とかになったらどうする?もう仕事は出来なくなるかもしれない。人生の見通しが全部狂っちゃうだろう。そうならないために、先物を使うのだ。
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- 先物取引では上記の通り、値下がりした場合でも、必ず約束した日に買い取らなければいけない。でも値下がりしたら買い取りたくないというのが僕たちの本心だ(笑)。値下がりしたら普通にガソリンスタンドへ行きたい。そういうワガママな人はどうやら僕だけではないらしく、先物オプション取引というものがある。これは、値下がりしたら、なんと予約を取り消してもいいという、なんともまあすごいものだ。もちろんその分だけ予約にかかるコストは割高ではある。しかしこれだって保険料みたいなものだと思えば、そんなにつらくはない。どのくらい割高かというと、それは市場で「今後ガソリンが値上がりしていくだろう」と思われているときはほとんど上乗せがない(ガソリンが値上がりするなら結局誰も予約を取り消すはずがないので、保険料を多くとる必要がないと考えていると思われる)。
- ああでも悲しいかな、日本の市場ではガソリンの先物オプション取引を扱っていないので、できない(海外の業者なら出来るのかもしれないけど、その場合は為替変動分も相殺しないと不十分だから、為替先物オプションなども手がけなければいけなくなるかもしれない)。
- なお、値下がりしてもガソリンを買い取らずに済む方法が実は他にもある。それは先物予約そのものを約束の日より前に売却してしまえばいいのだ。「12月末に買い取る」というこの約束は、実は適当な値段で他の人に売ってしまうことも出来るのだ。これはノリとしてはこんな感じだ。・・・ねえねえ、ここに「12月末に100リットルを買い取る」予約があるんだけど、買わない?今は1リットル188円くらいだから、予約代金18800円でどうよ?と。もちろんこれで売却できる。そしてもしこの予約を170円のときに買っていれば17000円で予約していたはずだから、なんと差額の1800円は儲けである(つまり自分が17000円で予約したからといって17000円で転売しなければいけないというわけではない・・・というか、そういうことはできない)。高いときに予約して安いときに(さらに値下がりすることを恐れて)売却したとすれば、その場合は予約したときの値段のほうが高いだろうから、差額はマイナスになる。もちろんやりたければ、下がりきった(と思われる)ところで、また予約しなおしてもいい。
- 先ほど代金はいらないと書いたけど、全くいらないというわけじゃない。払いますとか言っておいて、当日になって払えませんなんてことになったら困る。市場はパニックだ(受け取れるはずのガソリン代が受け取れないなんてことになったらどうする?)。だから証拠金として総代金の3〜5%前後のくらいのお金を預けておく必要はある。このお金は実際に現物を受け渡した後か予約の転売時に全額返される。また買い予約の場合、ガソリンの値段が下がってくると、その差額も預けてくれと催促が来る(これに応じない場合、証券会社としては何か他の担保が無い限り、予約を勝手に売却して清算してしまう)。もちろんこの預けたお金も現物の受け渡し後か予約の転売時に返される。
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- ここでガソリンの話をいったんやめて、農家のことを考えよう。もちろんガソリンのまま話を進めても同じなんだけど、日本では原油が出ないので、どうも生産者のありがたみが分かりにくい。
- 適当に種と肥料を買って、収穫して出荷するわけだけど、豊作だと値段が下がるし、不作だと値段が上がる。まあ不作で値段が上がる分にはいいかもしれないけど、豊作で下がると種代や肥料代が回収できないかもしれない。ということで、種をまく前とかに、先物で売る予約をしてしまう。もし市場が豊作を事前に予想していて(年間天気予報や、世界各国の収穫見込みなどを総合的に織り込んでいる)最初から値段が安いようなら、その年は作付けをしない。これだと収入がないわけだけど、でも損するよりはマシだ。・・・そして売り予約をして種をまいた後は、どれだけ豊作になっても問題ない。というか豊作で喜ぶってむしろいいことだ。
- もし自分の畑で病気などが発生してしまった場合は、それだけ収穫が減ることになるから、そのぶんの売り予約を市場に売却する(これは同じ量の買い予約を購入するのと同じこと)。天候不順での自分の畑での不作が予想される場合も同じだが、この場合は、おそらく他の農家も同じ目にあっていて、必死に売り予約を処分しているだろうから(=相殺のための買い予約が増えて値上がりしている)、差額はマイナスになっているだろう。だから危険を察知したら早めにしないといけない。これが怖ければ、最初から全部の収穫量に対して売り予約を入れないで置くほうが得策かもしれない。予想外の豊作になりそうなときに残りの分の売り予約を入れればいいだろう。
- なんにせよ、これで農家の経営はかなり安定するはずだ。そして農作物の先物は、外食産業やスーパーなどがフルに活用して、仕入れ値の安定につながっている。
- 事前に売り予約していない農家であっても、先物取引を活用することはできる。たとえば大豆を育てていたんだけど、予期せぬ豊作で、市場価格がとんでもなく安かったとしよう。だからできれば今出荷しないで、数ヵ月後、もしくは来年にでも出荷したいと思ったとしよう。しかしそのためには倉庫が必要だ。倉庫を持っていればいいけど、もしなければ倉庫を借りなければいけない。しかもこういうときに限ってみんな考えることは同じなので、貸し倉庫の料金が値上がりしていたりする。それに出荷前はもうお金が無くて、貸し倉庫代を工面できない。
- こういうときは、とにかく今の値段で全部出荷してしまう。そしてその収入をすべて貯金し、その一部を証拠金としてすぐに先物で数ヶ月先、もしくは1年先に買う予約をしてしまう。これで、なんと倉庫なしで倉庫に預けた状態と全く同じになる。なぜなら、もし予想通り数ヵ月後に大豆の値段が高くなれば、その値段で買う予約を転売してしまえばいい。このときの差額は、まさに「すぐに出荷しないで粘ったとき」との差額に等しいのだ。倉庫要らずだ。なんていい仕組みだろう。これなら腐りやすいものだって事実上の出荷時期を選べることになる。
- ただしこれを何度か経験すると、農家は気づく。「あれ?もしかして、これって畑すらなくてもいいんじゃないか?」つまり、安いときに買う予約をいれ、高いときにその予約を売ってしまえばいいだけなのだ。そしてこれこそ、今まで商社などがやっていたことでもある。彼らは安いときに大量に仕入れて倉庫にしまい、高くなったら倉庫から出して売っていたわけだ。それを倉庫なしでやっているだけのことだ。そしてこれを節度無くやり始めると、ついには最初の「危ない投資」になってしまう。だからくれぐれもほどほどに。
- 今は牛乳や鶏肉とかでも「飼料代が高くてやっていけない」とか言っているけど、これも全部先物取引で予約してあれば問題はおきないんじゃないかと思う。飼料も先物、そして出荷も先物。世間で資料の高騰が起きても関係なし。でも出荷製品が値上がりしても恩恵なし。とにかく安定。たとえ一生分の先物が予約できないとしても、仮に2年先、10年先まで予約できれば、「8年後以降は飼料代が値上がりしているのに鶏肉が値上がりしてないので予約できない。じゃあ、8年後に転職するかな」と前もって準備できるわけだ。今みたいに、「うわわわー、これじゃあ赤字だ、明日からどうしよう」なんてことはない。
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- 先ほどガソリンは半年先までしか予約できないと書いたが、これは工夫すればある程度は解決できる。たとえば2年先の予約を入れたいとしよう。それならとりあえずその分も半年先に予約を入れておく。そして半年経って予約日が近くなってきたら、その買い予約を転売してしまう。そして同時にそのときの半年後の買い予約をする(つまりこれは当初の1年後に相当する)。こうして買いつないでいけばいいのだ。これを繰りかえせば2年先にもできるし、10年先にもできる。だから手間と売買手数料がかかる以上の問題はない。
- なお、さきほど、半年後の値段も今の値段もそれほど違いはないと書いたし、それは確かにその通りなのだが、実際には少し差がある。一般的な傾向としては、未来の予約ほど少し割高だ。これはなぜかというと、結局、先の例のようにこの先物取引を倉庫代わりにする場合の、倉庫料に相当する分だけちょっと高いといった感じだ。まあそうはいっても、たぶん実際の倉庫料ほどは高くない。
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- 久しぶりの長文だが、結局このページで何が言いたいのかというと、僕たちはガソリン高騰に対抗するだけの仕組みを既に持っているのだ。というか、そういう目的のために米先物取引なんか江戸時代からあったんだ。それを活用すらしないで、高くていやになるとかぼやいてなんになるというのだ?デモ行進とかして何が変わるのか?(まあガソリン税をなくさせるにはデモは有効だけど)
- 食料費高騰が問題なら各自が先物で押さえておけばいいんだ。できるだけ安い店で買うのが「賢い暮らし方」だというのなら、先物で買っておくのは「もっと賢い暮らし方」じゃないか。なんでそうしないんだろう。
- 今の先物で問題があるとすれば、ちょっと僕たちには取引単位が大きすぎること(ガソリンなんて50キロリットル単位とか、ちょっとやってられない)と、取引品目が少ないことじゃないかと思う。あとオプションもできるようにしてほしい。僕は電気とかも先物で買えるなら買いたい。そうすれば電気代の値上がりに対して防衛できる。電力会社だって将来の収入が見通せていいんじゃないか?あとバス代も先物があったらいいなあ。バスカードだと単なる金券で、バス代の値上がりに対して無力だから。そうじゃなくて、「駅までのバス代」を200円で予約しておきたいわけだ。これでインフレも燃料価格高騰も怖くない。
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- ちなみに先物取引では、現物が手元に無く、しかも生産中ですらなくても、売る予約をすることはできる。これは期日までに売る予約を転売するか、もしくは買う予約を同じだけして相殺すればいい。まあ空売りだと思ってもいい。これも僕たちには使い道がある。
- 僕たちはみんな不景気になると、給料が下がったり、商品が売れなくなって生活が苦しくなったりする。逆に景気がよくなると、生活に余裕が出る。この景気は、大雑把に言って日経平均と比例関係にあると思う。そうだとすると、日経平均が下がると僕たちは株を持っていないにもかかわらず、損をするのだ。逆に上がると、やっぱり株を持っていないにもかかわらず、得をするのだ。ってことは、僕たちは株を全く持っていないなくてもある程度持っているのと同じような効果の中で暮らしているに違いない(株を持っている人はもっと持っていることになる・・・株取引以外の仕事もしていて、それが景気に左右されるなら)。そうだとすれば、それを打ち消せるだけの日経平均先物の売り予約を持っていれば、真の意味で景気の影響を受けない生活も可能だと思う。この場合、当たりまえだが景気がよくなってもその恩恵にはあずかれない(空売りしている日経平均先物に大きな損が出ているはずなので)。
- でもこれはそんなに悪くはない気がする。そもそも景気というのは「他人のせいで、自分が損をしたり得をしたりする」ことだと思う。自分のがんばりは変わってないのに、業績がよくなったり悪くなったりするわけだから。で、その景気の影響を打ち消してしまえば、あとは自分のがんばりだけで勝負できるわけだ。それってむしろいいことなんじゃないの?
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- とまあこんなふうに、先物取引は「上がりそうな気がするから買う」「下がりそうな気がするから売る」という投資家向けの使い方のほかに、上がっても下がっても自分は影響を全く受けない(もしくは少ししか受けない)みたいな使い方も可能なのだ。前者ばかり強調されている気がするけど、それは生命保険金目当てに殺されるかもしれないから生命保険って危険だよねって言うのと同じで、自分の目的にあわせてうまく使えば、これはとてもいいものだと僕は思う。
- 企業の業績発表で、今期は円高の影響で赤字に転落しましたとかよく聞いたけど、為替先物や為替オプションは存在するんだから、それをやらない企業がいけないんであって、円高は悪くないと僕は思う。運送会社や航空各社、バスとかだって、その規模になれば先物で将来の必要量を予約しておくことはできるだろうに。原油高で・・・なんていいわけして、恥ずかしくないのだろうか?自分が安定した経営に備えなかっただけじゃん。自分の失敗を市場のせいでごまかそうとしてないか?
- ちなみに日本の国債がぶっとぶ危険について僕は以前書いたけど、これも先物取引で打ち消せるっぽい。というか、国債の償還に政府が失敗すると僕たちは生活がめちゃくちゃになるほどの影響を受けるので(きっと夕張市以上の惨事になる)、さっきの日経平均と景気の関係と同じく、僕たちは国債を全く買っていなくても買っているのと同じような状態に置かれているんだと思う。だから国債先物市場で空売りすればこの影響を打ち消せる。ただ国債先物の取引単位は額面1億円で、その証拠金率が2%といえども200万円も必要であり、これじゃあちょっと僕のような庶民の生活防衛用としては役にたたない気がする(というかむしろこれをやると、明らかに僕一人の影響を打ち消すには売りすぎ状態になってしまい、日本政府財政の健全化よりも崩壊を願わないではいられなくなってしまう!・・・苦笑)。
- 国債空売りって意味が分からないかもしれないが、要するに国債を買うのと逆の効果があって、いうなれば、国債と同じ金利でお金を借りているのに相当する。だから通常は金利分だけ損をする(予約期日の乗り換え時にこれに相当する金額を損する)。しかし日本政府がもう返せません宣言したり、もしくは半分しか返せませんとかいうと、空売りしている人も借りた金を返さなくていいよっていうことで(まあ実際は借りてないんだけど)、その差額に相当する金額が利益としてもらえる。額面1億円だと、50%の債権放棄だと5千万円ももらえてしまう!・・・ほらー、早期の財政破綻に期待してしまうではないかー(笑)。ちなみに50%の債権放棄宣言は、7.2%くらいの金利上昇とほぼ等価なので、国債金利が上がっても空売りの人は儲かる。逆に金利が下がると損するし、変わらなくても予約期日乗換えを繰り返すたびに損をしていくことになる。これはいわば保険料ということだ。なお国債オプション取引も既に存在している。
- まてよ。ひょっとするともしかして、政府の無駄遣いがいつまでたっても終わらないのは、有権者の一定の割合の人が国債空売りして、財政破綻しろしろとか言っているのだろうか。だからそういう議員をわざと選ぶとか。しかも無駄遣いで自分に利益があるようにしているとか?・・・むう、もしそうだったらなんか許せない。だけどズル賢さは一流だな・・・腹立たしいことにこのやり方の欠点が見つからない・・・。政府に無駄遣いさせて自分を儲けさせて(助成金を乱発させるとか)、そして財政破綻すればウハウハ???なんてこったい!
こめんと欄