理想の税率

  • (by K, 2007.12.04)

(1)

  • その昔、領主による年貢の取立てが「生かさず、殺さず」を最良だと考えていた時代があった。確かに、田畑が毎年拡張されないか、もしくは拡張されたとしてもその拡張速度が一定だと近似できるのなら、このモデルは全く正しい。生存に必要な分だけを農民に残し、残りをすべて税として取ってしまうわけである。
  • しかし今はそういうモデルが当てはまるとは言えない。多くの利益を得たものは、それを元にさらに設備投資をしたり新規分野に参入したりと、複利運用したりするほうが普通である。中にはかなり頭のいい者がいて、(景気などにより多少の変動があるにせよ)年10%くらいの割合で複利的に利益を上げ続けるかもしれない。また全く知識がなくても、日本国債を買うだけで最低でも年1%くらいの複利利益を上げつづけることはできる。
  • 計算しやすくするために非常に極端なケースを考えよう。ここに年100%で利益を上げられる天才がいたとする。つまり、この人が100万円の元手で事業を年明けに始めれば、年末には200万円相当の財産にできるという人だ。
  • この人への課税率がもし100%であれば(これはひどい!)、利益のすべてが税金となるため、政府は毎年100万円を得られるということになる。だから10年間で政府が得る税金は1,000万円であり、この人の10年後の財産は100万円のままである。
  • では税率を下げてみよう。たとえば50%だとすると、利益の半分が税金となる。1年目の税金は50万円であり、この人の財産は150万円になる。2年目の利益は150万円なので、2年目の税金は75万円であり、2年後のこの人の財産は225万円になる。こうしてこの人はお金持ちになっていくがそれに応じて税収も増えるので、政府は税率100%のときよりも多くの収入を得られるのである。その額は合計5,666万円にものぼる。しかも10年後にはこの人は5,766万円ものお金持ちになっている。これは政府にとってうれしいだけではなく、この人にとってもうれしいことである。政府も国民もうれしいなんてなんていいことだろう。
  • もっとやってみよう。税率を10%に下げてみる。この場合利益の1割しか税金にできない。しかし残りの9割が複利で増えてそれが最後には大きな金額になって、たとえその1割だけでも莫大な税収になるのではないか、ということである。1年目は税金が10万円で、この人の財産は190万円になる。2年目は税金19万円で財産361万円になる。これを続けていくと、10年後の合計の税収は6,801万円で、この人の10年後の財産は6億1,310万円にもなる。先ほどの50%のときよりもさらに税収は増えているし、この人の財産はもっと増えている。だからこの人に対する理想の税率(=政府が得る税金の合計を最大にするための税率)は、50%よりも10%のほうがふさわしいといえる。
  • しかしだからといって税率をどこまでも下げればいいというものではないと思う。仮に0%にしてしまえば、国民がどれだけ儲けても税金は入ってこないのだから。ちょうどいいところがあるはずだ。それを計算してみて、考えてみたい。

(2)

  • 1年間あたりの(平均)利益率をrとおき、税率にrを乗じたものをtをおき、税金を払ってもらう期間をLとおこう。上記(1)の最後の例では、r=1、t=0.1、L=10ということになる。
  • L年間の税収の合計は t*(((1+r-t)^L)-1)/(r-t) に比例する。この式の値をSとしよう。だからLとrが与えられたときに、このSを最大にするようなtを求めればいいということになる。ということで、Sをtで偏微分してそれが0であるとすれば、以下の式が得られる(なおこの式を導くに当たって、Sを最大にするようなtを用いたとき、 ((1+r-t)^L)-1 の値は (1+r-t)^L と近似できると仮定した)。
    L*t^2-(L+1)*r*t+r*(r+1)=0
  • この2次方程式を解けばいい。なおLが十分に大きいときは、 t=(r+1)/L という近似解に近くなる。・・・おっと、このtの値で必ずSが最大になるというわけじゃない。単純な完全搾取であるt=rのときが最大になるかもしれないので(このときSはLrになる)、上記で求めたtによるSとLrとを比較する。
  • この2次方程式を使ってr=1、L=10のときのtを計算してみるとt=0.23になる。つまり23%の税率のときに政府はこの人からの税収を最大にできるわけだ。ちなみにそのときの税収の合計は8,985万円。なるほど、確かにこれは最大っぽい(=6,801万円よりも大きい)。

(3)

  • もう少しリアルにしよう。まず、10年間という期間は適切とは言いがたい。40年にしよう。L=40。それに生涯を通じて成長率年間平均100%を出せる人なんてまず考えられない(いるかもしれないけど)。とりあえず10%にしよう。そしてとりあえず計算を簡単にするために最初の元手は100万円にしよう。それでtを求めてみる。・・・あれ、これだと完全搾取のt=0.1が最大っぽい。t=0.1だと40年間で400万円。元手があまり多くないとはいえ、納税額が年10万円って、逆にちょっと不自然だな・・・。まあ複利的に増やそうとするとこの辺が限界なのだろうか・・・。
  • うーんかといってr=0.1のところを0.2とかにするのは考えにくいなあ。ああ、有名な MAN-IP220 (註:海外のファンドの名前)とかだと元本保証でも年平均15%とか18%とかでているのか・・・。うーん、天才ってやっぱりいるんだなあ。じゃあ、r=0.2を計算してみる価値もありそう(MAN-IPは20%を出してはいないみたいだけど、それはいろいろ手数料とかを引いた後の金額かもしれないから、それを除いた純粋値では平均20%を超えているかもしれないなと思って・・・というか単に切りをよくしただけなんだけど)。・・・そうすると、 t=0.0354 が得られる。これは税率にすると17.7%になる。40年間で納める税金は合計2,689万円。もし税率100%で毎年20万円ずつ搾取してしまうと800万円にしかならないから、リアルなケースでもやはり税率をむやみに上げないほうが政府にとっては得なのだ。
  • 現実にこんな人がいるかどうかは分からないけど、r=0.3の場合も40年で計算してみた。t=0.0359。これをrで割って税率に直せば12.0%。どうやら一般的に、rが大きくなるほど税率は小さいほうがよさそうだ。

(4)

  • ちょっと調べてみたらすごい人がいた。この人は7年間の株取引で資産を1万倍以上にしている。これは年273%を超えている。当たり前だけど(脱税していなければ)毎年10%だか20%だかの税金を取られているはずで、もしそれがなければ(仮に税率を10%とすると)年平均300%を超えているだろう。
  • このr=3でtを計算してみようと思う。Lは40年だ。まあ、こんな急成長が40年間も安定して続くわけがない(市場規模が追いつかなくなる?)といわれたらそんな気がするけど、この人が日本市場で収まらなくなったら海外市場に出て行って、そこでも同じ手法で成功し続けると仮定しよう。t=0.100とでた。税率に直せば3.33%。おおすごい!
  • もし日本政府がおろかにも20%で課税してしまうと、政府はこの人から40年間で(100万円スタートと仮定)4.54*10^22万円=4.54*10^14兆円しか税収を得られない。うわー、どこが「しか」なんだー。・・・しかし10%に減税していれば、40年間で5.94*10^23万円に増える。10倍以上だけど、天文学的数字過ぎてありがたみがない・・・。さらに3.33%へ減税していれば、1.51*10^24万円に増える。

(5)

  • とまあ、金額が大きすぎて何がなんだか分からなくなってきたけど、とにかくお金をいっぱい稼げる人には高い税率をというのは、実はあまりうまくない方法に思える。税金高いと海外に行ってしまうかもしれないし。(3)の最後に書いたように、むしろrの大きい人ほど税率は下げたほうが政府にとっては得なのだ。そしてそのほうが納税者にとってもうれしい。税率が所得によって変わるなんて計算が面倒だから、いっそのこと20%くらいで統一しちゃえばいいのに。政府10%+地方10%とか。なんで20%にしたのかというと、r=0.2の時の最適値が17.7%だったから。
  • うーん、国民の平均がr=0.2になったらこの説も説得力があるんだけどなあ。ならないよなあ。毎年20%も安定して投資益が得られるなら、誰も貯金なんかしないもんなあ。
  • じゃあ少し妥協して、過去5年間の所得の成長がr=0.2を超えていたら、税率を下げてあげるっていうのはどうだろう。つまりお金儲けがうまい人は税率が低い。これだとますます格差は開くだろうね。でも生活保護の人とか納税額の少ない人は間接的には納税額の多い人のおかげで暮らせているわけで、しかもこれが結局は納税額を最大にする方法なんだから、税金に頼る人たちは格差が開いてもずるいとか言うべきじゃない気がするんだけどなあ。

(9)

こめんと欄

  • もしかしたらおかしい数値が混ざっているかもしれません。忙しいときに勢いで書いた上に、何度か修正しているので混乱しているかもしれません。気がつけば直します。 -- K 2007-12-05 (水) 20:15:10

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Last-modified: 2007-12-05 (水) 20:15:10 (5317d)