理想の税率
(1)
- その昔、領主による年貢の取立てが「生かさず、殺さず」を最良だと考えていた時代があった。確かに、田畑が毎年拡張されないか、もしくは拡張されたとしてもその拡張速度が一定だと近似できるのなら、このモデルは全く正しい。生存に必要な分だけを農民に残し、残りをすべて税として取ってしまうわけである。
- しかし今はそういうモデルが当てはまるとは言えない。多くの利益を得たものは、それを元にさらに設備投資をしたり新規分野に参入したり、複利運用したりするほうが普通である。中にはかなり頭のいい者がいて、(景気などにより多少の変動があるにせよ)年10%くらいの割合で複利的に利益を上げ続けるかもしれない。また全く知識がなくても、日本国債を買うだけで最低でも年1%くらいの複利利益を上げつづけることはできる。
- 計算しやすくするために非常に極端なケースを考えよう。ここに年100%で利益を上げられる天才がいたとする。つまり、この人が100万円の元手で事業を年始に始めれば、年末には200万円相当の財産が得られるという人だ。
- この人への課税率がもし100%であれば(これはひどい!)、利益のすべてが税金となるため、政府は毎年100万円を得られるということになる。だから10年間で政府が得る税金は1,000万円であり、この人の10年後の財産は100万円のままである。
- では税率を下げてみよう。たとえば50%だとすると、利益の半分が税金となる。1年目の税金は50万円であり、この人の財産は150万円になる。2年目の利益は150万円なので、2年目の税金は75万円であり、2年後のこの人の財産は225万円になる。こうしてこの人はお金持ちになっていくがそれに応じて税収も増えるので、政府は税率100%のときよりも多くの収入を得られるのである。その額は合計5,666万円にものぼる。しかも10年後にはこの人は5,766万円ものお金持ちになっている。これは政府にとってうれしいだけではなく、この人にとってもうれしいことである。政府も国民もうれしいなんてなんていいことだろう。
- もっとやってみよう。税率を10%に下げてみる。この場合利益の1割しか税金にできない。しかし残りの9割が複利で増えてそれが最後には大きな金額になって、たとえその1割だけでも莫大な税収になるのではないか、ということである。1年目は税金が10万円で、この人の財産は190万円になる。2年目は税金19万円で財産361万円になる。これを続けていくと、10年後の合計の税収は6,801万円で、この人の10年後の財産は6億1,310万円にもなる。先ほどの50%のときよりもさらに税収は増えているし、この人の財産はもっと増えている。だからこの人に対する理想の税率(=政府が得る税金の合計を最大にするための税率)は、50%よりも10%のほうがふさわしいといえる。
- しかしだからといって税率をどこまでも下げればいいというものではないと思う。仮に0%にしてしまえば、国民がどれだけ儲けても税金は入ってこないのだから。ちょうどいいところがあるはずだ。それを計算してみて、考えてみたい。
(2)
- 1年間あたりの(平均)利益率をrとおき、税率をtをおき、税金を払ってもらう期間をLとおこう。上記(1)の最後の例では、r=1、t=0.1、L=10ということになる。
- L年間の税収の合計は t*(((1+r-t)^L)-1)/(r-t) に比例する。この式の値をSとしよう。だからLとrが与えられたときに、このSを最大にするようなtを求めればいいということになる。ということで、Sをtで偏微分してそれが0であるとすれば、以下の式が得られる。